中学総合講座「生きること 働くこと 考えること―職人の世界から」第4回 宮本卯之助商店取締役会長 七代目宮本卯之助氏をお迎えして
2018.03.19
様々な分野での「職人」をゲストとしてお呼びし、「生きること、働くこと、考えること」をテーマに議論をする「中学総合講座」。最終回となる第4回は、「技術の伝承とは、心を伝えること―『義』を重んじ、『正しいこと』を行う境地とは」というタイトルで、東京浅草にある宮本卯之助商店の取締役会長、七代目・宮本卯之助さんにゲストとしてお越しいただきました。
文久元年(1861年)に創業した宮本商店は、太鼓や神輿、神事祭礼の道具を製作する専門店です。明治26年(1893年)に、四代目の卯之助が東京浅草に現在の店を構えました。宮内庁御用達として雅楽の楽器を皇室に納め、浅草三社祭では、神輿を提供してきた老舗中の老舗です。150年の連綿として続く歴史の中で、日本文化の伝統芸能を支え続け、同時に、時代のアンテナの感度を研ぎ澄ませながら、新しいことも大胆に取り入れてきました。
まず最初に、七代目からお店の歴史、和太鼓や神輿、雅楽の種類や用途についてやユネスコ世界無形文化遺産に「山・鉾・屋台行事」として登録された経緯等について、お話を頂きました。
その後、モノ作りの魅力や、若い職人を育てること、伝統を継承していくことについては、「最初から最後まで手作りしていくところに魅力がある」といったことや、「ただ作るだけではなく、世のためにちゃんとしたものを残していく責任を感じる」という点も強調されました。
また、モノ作りの技術を養うだけではなく、太鼓や神輿の歴史を知る中で、その伝統を大切にするからこそ、時代に合わせて新しい製法や素材にも果敢にチャレンジすることの必要性についても話されました。
さらに、社訓でもある「義を重んずること」の意味について、「使い手の立場に立ち、これで良いと妥協することなく、最高のモノを提供する」精神だと教えて頂きました。150年にわたり「宮本卯之助」という大名跡を継承し,守り続けてきた迫力
ある使命感が、生徒たちに強く伝わったと思います。
以下、生徒の感想です。
A君「今回、宮本卯之助さんのお話を聞いて最も強く心に残った言葉は、『伝統は革新の連続があってこそ成り立っていく』だ。この言葉は、お話の最後の方で言われたのだが、最初はこの言葉の意味がよく飲み込めなかった。僕は今まで『伝統』という言葉について、昔からの考え方にあくまでも固執して、すべてを全く改めない頭の固い人たちが口にする言葉だというイメージをもっていたからだ。宮本さんの言葉は、僕のそのイメージをくつがえすものだった。ほとんど真反対の場所に位置するものだと思っていた『伝統』と『革新』という言葉は、実はとても近い場所にあった。その時々の時代に合わせた形で必要な新しいものを選択して取り込んでいく勇気と決断がなければ、これまでの『伝統』も維持していくことが難しいということなのだろう」(中2)
B君「『義を重んじよ』-文久元年に創業した宮本さんのお店を支える、この社訓の重さをヒシヒシと感じました。近年、後継者不足に悩む伝統工芸の世界で、多くの若手人材が自ら宮本商店の門をたたき、工芸職人として修行をしているという現状を宮本さんからお聞きし、それが可能なのは『のれんに、あぐらをかく』ことなく、常に時代が求める『義』を追究してきたからだと思いました。前回のゲスト・鮨職人の野口智雄さんは、たとえ嫌いな仕事でも、その中で一生懸命やっていれば、その楽しさがわかってくると言いました。今回の講座の中で3人の職人の皆さんに共通していたのは、実はこの『義』をそれぞれの場で追究してきたことではないかと思います。店内でのお客さんとの対応を細心の心遣いで追究している渡邊太一さん。鮨の伝統と革新を担い、経験を積むために海外へもあえて飛び出した野口さん。これまで日本の中で果たしてきた祭りや和太鼓の役割を大切にしながら、常に時代と共に進化を続けることに挑戦する宮本卯之助さん。人生の中で行くべき道を探し続けるこれらの姿勢そのものが、職人として生きることではないかと思いました。『吾 十有五にして学に志す』―中国の戦乱を生きた孔子の言葉です。私も今年15歳になります。今回のお話を糧にして、私なりの『義』を見つけたいです」(中2)